第一節 ファサードから見る博物館イメージ
博物館イメージと建築
博物館は体験の場である。博物館のイメージを作り出すのは、実際の博物館体験が元になることが多いはずである。博物館を知る情報はたくさんあり、実際に博物館に訪れるまえの事前情報がイメージを作り上げる手助けをするだろう。しかし、それらの事前情報に基づいて作り出されたイメージも、自分の足で博物館に一歩踏み込んだ瞬間に塗り替えられることはよくあることではないだろうか。
博物館のイメージを作り上げる上で、よく取り上げられるのは展示である。また博物館を紹介する時に用いられる写真の多くは、博物館建物の正面か、所蔵している代表的な展示物であるだろう。ある博物館を説明するとき、どんな展示物があるのかで説明することは一番ポピュラーなことである。例えば、国立科学博物館(注十三)では恐竜(の骨格標本)が見られる、国立西洋美術館(注十四)ではロダンの『考える人』であったり、その博物館が所有している代表的な展示資料が「○○のある博物館」という人の記憶に残りやすい印象をあたえる。
一方で博物館の建物自体が、その博物館そのものを印象付けることもまた多い。例えば、ニューヨークにあるグッゲンハイム美術館(注十五)などは、この特徴ある建物の外観から人の記憶に強烈な印象を残す。例え一度も実際の博物館に訪れたことがなくとも、何かのきっかけで目にした事のある映像が、そこを博物館であるという認識とともに記憶に残るということである。つまり、博物館の建物をただのハコと侮っていては、博物館のイメージを作り上げる一つの要因を見逃してしまうことになる。そこで、今回はこの建物の特に外観に注目してみたい。
博物館の比較
博物館の外観を見ることで、一体何が見えてくるのだろうか。それは、これまで見落とされてきた問題を、視覚によってはっきりと認識させられるきっかけを作り上げたといっても過言ではない。日本の博物館がほとほとマイナスイメージによって覆われている反面、海外旅行等では人(日本人)はかなりの確率でその国の博物館へと足を向けるらしい。それは単に有名だからというだけではないだろう。数ある海外旅行雑誌を開いても、必ず海外の博物館は大きく旅先の目玉として紹介されている。それは各国における博物館の社会的なポジションの高さを垣間見せると同時に、いかに博物館側が一般社会との接点を密に持とうとしているかの努力をも見せ付けられるのである。すなわち、海外の博物館はけして旅行者に対してのみその存在をアピールしているわけではないということである。
今回、日本の博物館を見るだけでなく、海外――すなわちアメリカ合衆国――の事例も比較としてあげようと考えたのは、単純に日本の博物館だけと取り扱ったのでは見えてこない問題点を、アメリカで実際に訪れた博物館を例にすることで、より明確に見えてくるのではないかと考えたからである。もちろん、海外研修というチャンスがなければ実現しなかった比較であるが、自分自身の直接体験を通じて思ったことや感じたことを含め、日米の博物館が一体どういったものであるかを自分自身の視点でもって考えることができた絶好の機会であった。
博物館体験
日本の博物館を知るために、アメリカの博物館を比較対照として先ず紹介していく。アメリカでは約一ヶ月間に渡り、首都であるワシントンDC、ボルティモア、ニューヨーク、ボストンの四都市を中心に四十三の博物館を見て回った。館種はあえて統一せず、博物館と呼ばれる施設ならば水族館や動物園も含めて実際に体験してきた。そこで感じたことは、博物館とはやはり実際に体験しなければ少しもその実態がつかめないということである。博物館の建物の中に入った瞬間から、時にはその都市や地域に足を踏み込んだときから、実際の博物館体験は始まっているのである。本の中のようにその博物館だけが切り取られ、ぽつんと何もない場所に突然博物館はあるわけではない。そこには博物館と地域との結びつきも時には感じられた。それは正に博物館体験の始まりはどこかという問題にも関わるのではないだろうか。
博物館体験の始まりは、来館者が博物館に行こうと決めた瞬間からすでに始まっているというのが来館者調査の手法であるようだが、その中で、実際に博物館に訪れたとき、つまり博物館の入口体験を中心に、博物館とは何かを探っていきたい。実際に博物館に訪れた来館者が、博物館のイメージを確認するのはまずその建物を見たときではないだろうか。そこで、博物館の外観(ファサード)を、その建物のデザイン等から分類をし、時代順にならべてみたのが資料六(注十六)と資料七(注十七)である。前者がアメリカで撮った博物館の写真を元に作成したものであり、後者が日本の博物館である。
アメリカではすべて自分の足で体験した博物館であり、分類上例外的なものはとりあえず省いてある。日本の博物館も半数が実際に訪れた博物館であるが、直接の写真資料がない場合もあり、博物館資料から写真はコピーして用いた。付してご了承願いたい。
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