第3章 入口とは何か
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第三節 入口からみた博物館

博物館の入口と展示の入口
 博物館の入口としてどのような入口が博物館にとっては最適なのかという質問をしたことがある。そのとき応じてくれたのは国立アメリカ歴史博物館のフィン博士であったが、すぐ隣にある国立自然史博物館の入口は、一つ博物館の入口としては一番分かりやすくて来館者にとっては良い入口だろうとおっしゃっていた。国立自然史博物館とはシンボルとしてアフリカゾウの剥製を展示してある博物館であるが、この博物館の入口はゾウが出迎えてくれるだけでなく、三階までの吹き抜けた円形のホール(ロタンダ)に、各階の展示室の入口がすべて見渡せるという配置になっている。
 博物館に限らないが、入口にとって何よりも重要なのは「分かりやすさ」である。展示の入口で言えば、入口を見ただけでその展示室の規模や所要時間が分かるような展示室の入口というのは意外と少ないのではないだろうか。特に国立アメリカ歴史博物館で出会った二人のキュレーターが口をそろえていったことは、まさにこの分かりやすさという点であり、博物館の展示の入口を例に出して話してくださったことは、「閉じされた」展示の入口と「開かれた」展示の入口についてである。
 特により積極的に展示室の入口について語ってくださったのは、ミス・オンタイムのニックネームを持つ、ミス・であるが、彼女は国立アメリカ歴史博物館で一番新しい展示である「ON TIME」の展示を手がけたキュレーターである。彼女によれば、博物館の展示の入口には「閉じられた」ものが非常に多く、先にあげた「所要時間」と「展示の内容」が展示の入口を見ただけでは分からないことが多く、来館者たちは展示の入口だけを見てその奥にもっと多くの展示があることに気づかないか、または気付いても時間や内容がわからないためにその展示を素通りしてしまうことがあると離してくれた。
 どれほど良い展示を作ろうとも、その展示を見てもらわなければもとからその展示はないことと同じであり、展示の入口は来館者の興味を引き、そして展示空間の中までひきつけるだけの力と演出をしなければならないと話してくれた。また、フィン博士は展示の入口が「閉じられている」ことで、来館者の約半数がその展示を見ることなく終ってしまうことがあるとも話していた。その半数の来館者を展示の中に招き入れるためには、展示の入口をより分かりやすくする必要があり、展示の入口を「開く」ことで、それまで素通りしていた来館者の半数が、展示室に足を踏み入れるようになったという事例もあると聞かせてくれた。
 国立アメリカ歴史博物館の展示室というのは、いくつかのテーマごとに展示室が分かれており、博物館の人からもまるで展示のデパートのようだといわれているらしい。そして巨大な博物館にはたびたび起こることであるが、一日ですべての展示を見ることが不可能な場合、来館者にとってはまさにウィンドーショッピングのように展示の入口を見て、中に入るかどうかを決めることが多いと言っていた。その場合、よりその展示に興味を引かせ来館者の足を上手く展示スペースの中にまで誘導した展示が来館者の評価の対象となる。
 このウィンドーショッピングで展示内まで来館者を上手く誘導するために、オン・タイムの展示は展示の入口から展示空間の最奥までを見通すことができ、来館者にどのくらいのスペースの展示であるかと一目瞭然に分かるような配置にされた。そしてもう一つの問題であるどのくらいの時間がかかるという点も、次のような手法を試すことで時間配分の自由性をもたせてみたのである。つまり展示の時間がかかるというのは展示導線の問題でもあり、展示を一つの物語としてしまった結果、良くも悪くもストーリーラインが出来上がってしまい、途中で展示を抜けるようなこどが出来にくくなってしまっているのである。一度入ってしまえば、途中で引き返すにしても進むにしても時間がかかってしまい、展示の物語は別の見方をすれば強制的な存在と化してしまうのである。
 そこでミス・オンタイムが考え出したのは、ホームページ形式の展示である。どういうことかといえば、ホームページを見るとき人は自分の興味のあるページにだけアクセスすることが出来、すべてのページを最初から最後まで見る必要はないのである。もちろん望めばすべてのページを見ることが可能であるが、見る見ないはそれぞれの意思に任され各項目事にレイアウトされているのがホームページの特徴である。その特徴を展示に導入してみたのが、オン・タイム展示である。
 オン・タイム(時間)の展示では、まずその展示の入口から工夫を施してある。通常の展示室の入口では、その展示室ではどんなものが展示されているのガを紹介したパネルを展示室の入口に置いてあるために、来館者はそのパネルを読むだけで展示の概要を掴んでしまい、実際には展示を見ることなく次の展示へと移動してしまうことがあるという発見をしたミス・は、オン・タイム展示ではこの解説パネルを入口部分の一番奥に配置した。それによって見に来た人はどんな展示かと知るためにどうしても展示室内に入らざるを得なくなり、他の展示と比べてよりスムーズに来館者の足を展示室内に導くことに成功していると言っていた。
 次に展示の配置であるが、ホームページ式展示ということで具体的にどういった展示は位置になっているかといえば、展示室の中心をまっすぐに貫く導線によって展示室を奥まで見通せるようにし、その中心導線から枝分かれするように各小テーマにそった展示を配置するようにした。これによって来館者が自分の興味ある時間についての展示を見ることができ、もし時間がない場合も、自分の気になる点だけを選んで見ることが出来る利点がある。
 しかし、一方で展示には社会的な物語も必要であり、この枝分かれ式の展示では、時間についての物語の一部しか分からず、それでは展示の意味がないのではないかといった反論もあったという。実際にフィン博士はそのような発言をしていたが、この展示方法についてはどちらにも言い分があり、間違っているとは言い切れないものである。しかしこれらの論議が行われる背景には、各方式にのっとった展示を設けることの出来る建物のスペースや、他の展示そして他の博物館との比較が常に出来る環境だからこそ可能な議論であるともいえるだろう。実際これだけの博物館が隣り合った場所にあるというのはなかなか経験できないことであり、毎日博物館を変え時には各博物館を歩き回ることが可能なスミソニアン博物館ならではの経験でもあるだろう。
 博物館の入口と展示の入口では、その意味するところと目的が大分違うためにすべての経験を博物館の入口に当てはめることはできないが、少なくとも展示の入口でも博物館の入口でも、来館者の興味を捕らえるための工夫はされるべきものであることが分かった。
 良い展示の条件として、練馬区立美術館の学芸員・横山氏が次のように博物館実習の際に語ってくれたことを紹介したい。

  「良い展示というのは、はじめからおわりまで自然と来館者を歩かせる」

 この言葉を博物館に当てはめるならば、「良い博物館とは、はじめからおわりまで来館者を惹きつけ自然とあるかせる」ということになる。もちろんこれは博物館の規模とも関係することなので、もう少し工夫するならば、「良い博物館は来館者を自然と歩かせ、かつ自然と休ませ退屈させないで出口まで歩かせる」博物館ではないだろうか。


→第4節 「結び しかけとしての博物館入口」
文章作成2002年7月9日
HP作成2003年1月6日 
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