第一節 博物館にとっての入口
入口の三つのキーワード
博物館の入口の通過儀礼性を検証していく上で、博物館とは何かについてを前章までに扱ってきた。後半は博物館にとっての入口とは一体どのようなものであるのかという点について、具体的な博物館の入口事例を見ていきながら検証していきたい。
まず博物館の入口を見ていく前に、『ニュージアム集客・(注三二)経営戦略』から博物館の入口(エントランス)における基本的な考え方を引用してみる。
・ ミュージアムのエントランスは、利用者にとっての知の入口である
・ ミュージアムに対して、利用者抱くイメージとこれからミュージアムで体験できるコトを結びつけるスペースとして演出する
・ ミュージアムのテーマとコンセプトに利用者を共感させ、ミュージアムでのルールを利用者にメッセージする
この三つの基本的な考え方から取り出せるキーワードは三つである。つまり「知の入口」としての博物館入口、「イメージと体験を結びつけるスペース」としての入口、そして、「メッセージ」を伝える場所としての入口の三点である。
そもそも博物館とは何かという問いに対し、博物館は「知」そのものであるとキーワードの「知の入口」からは読み取ることが出来るだろう。もちろん、比喩的表現の意味も含めてこの「知の入口」というキーワードは考えていかなければならないが、少なくとも博物館体験の中心である展示を「モノ」ではなく「コト」と呼んでいる以上、博物館における「知」とは、来館者にとっては何らかの発見やきっかけという成長の段階を踏むことの可能な(可能性のある)場所であると言う認識に立ったものであると言える。
前章の博物館イメージから博物館とは何かを探っていったとき、博物館における展示についてはあまり深く追求してこなかった。しかし来館者にとって博物館の展示は博物館そのものであるといえる。コレクションを基礎とした展示を持っていない博物館は、そもそも博物館とは呼べないのである。ならば、その博物館そのものである展示とは何かと言った場合、ここではとりあえず「知」そのものであるということができるだろう。では「知」とは何かという問題に突き当たってしまい、論点がずれていってしまうのでここではあまり深く追求しないでおくことにするが、「知」と「博物館」はイコールで結ばれているとここでは仮定するならば、前章のおわりに博物館の展示に必要なのは「社会的物語」と言ったフィン(注三三)博士の話を取り上げた。この「社会的物語」を「知」に置き換えると、博物館の展示から社会的物語を発見する博物館体験のはじまりが、博物館の入口ということができるだろう。
そこで第二点目の「イメージと体験を結びつけるスペース」としての入口が重要度を帯びてくる。博物館の入口は、まだ博物館体験の場である展示空間の前段階である。ここではまだ来館者は博物館の展示がどういったものであるかを知らないことになる。(もちろんこれは初めて博物館に訪れる人を対象としたときの話である)そこで、博物館に来る前に得た事前情報の中から作り上げられた博物館に対するイメージと、実際にこれからはじまる博物館体験を違和感なく結びつけ、スムーズに博物館体験に移行できるように手助けするのが入口の機能である。
またこの「結び」つけるという点に関しては、博物館に対するイメージと体験だけを結びつけるのではなく、来館者自身の意識も博物館そのものにリンクさせ、一時それまでの日常空間からは切り離さなければならない。なぜならば、博物館は人が生活するために作られた場所ではなく、あくまでも博物館の展示と資料のために作られた場所であるため、どうしても人にとっては不便な箇所も存在してしまう。それは博物館の使命とも結びつくのでどうしても来館者側に協力してもらい、守ってもらわねばならない約束事が出てくるのである。
そのために三点目「メッセージ」というキーワードが必要になってくるといえるだろう。博物館のメッセージはまた博物館の「テーマとコンセプト」を来館者に共感してもらうためのメッセージと、博物館での「ルール」を伝えるメッセージの二点に分けることが出来るのである。このメッセージは、テーマとコンセプトに共感することにより、来館者は博物館との「結び」つきを強め、そして「ルール」を理解し実行することで他の日常から「切り」離すことにより、博物館体験をより一層深い経験とすることを目的としている。
博物館入口の四つの機能
これらの基本的な考えを具体的に機能させるものとして、次にあげるのが博物館入口の四つの機能である。「入場券売場(Ticketing)」、「入り口(Entrance)」、「案内所(Information)」、「友の会事務所(Membership)」の四点であり、その他に付属している「食堂(Restaurant,Cafeteria)」と「売店(Museum
Shop)」があげられている。これら博物館の入口について、松(注三四)本栄寿氏は次のようにホーム・ページ上のミュージアム・トークで述べている。
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普通は入り口の自動券売機で入場券を買い、それを入り口の係員に差し出して入館するでしょう。案内所や友の会は奥まった中にあることが多いのです。
アメリカではどうでしょう。実はここに違いがあるのです。博物館は来場者に暖かい対応をしているといえます。
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博物館の入口に、日本とアメリカの博物館の違いを見ることができるという氏の発言こそが、今回博物館を卒論テーマに取り上げてみたいといったとき、「入口」という切り口があると教えてくれたきっかけなのである。
博物館の入口における四つの機能について、ボストン科学博物館のレイアウトを見ながら解説してあるのを簡単に要約してみると、まず第一にこれらの4つの機能は「それぞれ独立していて、展示場入り口を入らないと友の会事務所に行けないといったことはありません」。
そして次に「入場券売場」では来館者は、「機械ではなく係員に『常設展示』『特別展示』『映像IMAXやプラネタリューム
』と行く先を聞かれて入場券を買います」。また、「案内所」は「もっとも目立つ入り口にあります。友の会事務所もそうです。友の会にはいくつかのグレードが あって、それぞれ特典が違います。一人でも多くの会員と上級会員を勧誘するのが目的です」。そして「展示場入り口」に入るときは「入場券を差し出して入場します。係員からステッカーやラベルなどを貰って胸にはると、その日は何度でも出入りが自由になります」。とボストン科学博物館の事例をあげ、博物館の入口機能について分かりやすく説明している。
その他にあげられた「食堂」は、「一部を除いてセルフサービスのカフェテリア形式」であり、その「多くは入場料を払わず直接入れ」ると伝えている。また「売店」も展示場の入り口とは別で入場料を払う必要はなく、「最近拡張する動きがあり品物も豊富」で「旅行者にとって外国の博物館のミュージアム・ショップを訪れることはとても楽しみです」とアメリカの博物館について述べている。
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アメリカの博物館は来館者の立場にたって便利なように、来館者にはすべて人が対応しています。
また博物館経営を意識して「来場して見てもらう」デマンドサイドにたつ運営をして、人員をそのような重点配置をしていると考えられます。
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博物館の利用に対し「人」が対応していることを重視した松本氏の発言は、実際にアメリカで博物館を見て回った時に感じた私の感想でもある。しかし日本の博物館を見ていくと、実は博物館の中にいる「人」が非常に希薄な存在として扱われていることに気付いたのだが、これはまた後の節でまとめて論じることにしたい。
チェックリスト
博物館の入口を見ていく際に、実際に博物館が使用可能なチェックリストが存在する。資料(注三五)十五がそうであるが、このチェックリストを確認してから、実際に博物館入口事例へと移っていきたい。詳細は資料編で確認していただきたいが、ここで特に気になるのは「博物館への入館はすべての面が影響する総合的な体験である」という意識とともに、各館に向けて実用的な入館体験を構成する事柄のチェックリストを提供している点である。一例をあげれば次のようなチェックが設けられている。
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外観―博物館は見つけやすいか。大きな良いデザインの看板で示すべきである。博物館は魅力的に見えるか。古い建物でも良いデザインの看板や旗で改良できる。開館時間や入場料を示した良いデザインの掲示板があるか。警備員や入口の館職員は身なりが整い、能率的で、入館者を歓待しているか。
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また、このチェックリストは博物館における基本的な諸要素を網羅しており、博物館の建物についてもリストが作られている。そこでは博物館は次のように述べられ、博物館と博物館建築との関係を示している。
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変化しない博物館は少ないし、変化すべきものである。時間の経過に伴い、姿勢や方針、価値や重要性が変化し発展し、これに応じて博物館の形態も機能も変化することを認識して、博物館は設立され管理されるべきである。博物館の建築様式やデザインは、内面的にも外面的にも、博物館の目的、コレクション管理の姿勢、入館者サービスおよび経営と管理における変化を反映するだけでなく、必要な変化に対応することが困難な場合には、それが一つの束縛として作用することもあり得る。
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以上のチェックリストをヒントに、これから博物館の入口について、具体的な博物館事例を取り上げながらみていきたい。
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